「全体主義」について理解する上でも、「法の支配」と「法治主義」の‟違い”について理解を深める必要があります。
今回も中川八洋氏の著書『保守主義の哲学』より抜粋してご紹介します。
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「日本の憲法学界の特徴の一つは、戦前・戦後を通じて、『法の支配』を理解できた憲法学者が一人もいないことである」(p.77)
「近代ドイツ産の『法治主義』『法治国家』をもって、中世イギリス産の『法の支配』と同一視する」(p.77)
「日本の憲法学界が基本的に英米法を排斥して、ドイツの三大社会主義憲法学者――イエリネック/カール・シュミット/ケルゼン――に依拠してその論を立てるという、偏向をきわめた学風の永年の積弊による」(p.79)
「法の支配」とは
「『法の支配』とは、古代ゲルマンからの法思想が、中世において英国に発展し憲法原理となったものである」(p.77)
「『法治主義』と『法の支配』は似てもおらず、本質的に非なるものであり、根本から相違する」(p.78)
「『法治主義』『法治国家』の『法』は、制定された法律を指す」(p.78)
「『法の支配』の“法”とは、人間の意志から超越した古来からの“神聖な真理”のことを意味する。つまり“法”は“つくる”ものでなく、祖先の叡智の中に“発見する”ものであったから、“つくる(制定する)”ものである法律は、『法の支配』の“法”にはなりえない」(p.78)
「古来からの自然に発展してきた“法”こそ、自由の淵源である」(p.356)
「国家の法の最も原初的なものは、契約によってとか、共通の福祉を保証することを考えて、つくられたのではない。“法”は国家の誕生以前に誕生した。そして、この“法”が人間間の強い絆となったから一つの領域の人々が民族となり、国会組織をつくっていったのである」カール・メンガー
「ハイエク的な『法の支配』とは、『すべての人に対して等しく適用される同一の抽象的で一般的な規則(ルール)の支配』『正義に適う普遍的な行動ルールの支配』というものである」(p.347)
「法の支配は、立法全体に対する制限である」ハイエク
「法の支配とは、立憲主義以上のものでもある。それは、すべての法律がある原理に従うことを要求する」ハイエク
「『法の支配』は全体主義を防止するが、『法治主義』は全体主義と結婚する。『法の支配』のある自由国家では『法治主義』は必ず正しく機能するが、『法の支配』なき『法治主義』は、時には自由を襲う、両刃の刃となる」(p.80)
「“法”こそが自由の淵源であり、これ故に『“法”の下の自由』というのであるが、『福祉国家』の独善独走の今日にあっては、『〈法律〉の下の自由』にすりかえられている」(p.355)
「『法律=命令』であった共産諸国の『法律』が人間の自由を剥奪してきたように、“法”なき『法律』の働きは、必ず自由を擁護する“法”とは逆のものになる。『〈法律〉の下の不自由』が生じる。この故に、自由の原理は『法律』を可能な限り制限し減らして、そのぶん“法”を保守し、“法”を発見し、“法”を遵守することである。そんな国家のみが、真に自由と美徳ある国家になりうるのである」(p.355)
「『法の支配』とは“法”こそが“支配者”であり、『国民』も『人民』も“法”に支配され、“法”の下にあるとする、『法主権』の憲法原理である」(p.84)
「『国民主権』、それは『法の支配』を破壊するアナーキズムの革命用語として、1789年のフランスでつくられたものなのである」(p.85)
「法治主義」「人定法主義」とは
「『法治主義』とは、モール/シュタール/グナイストらによって19世紀末の近代ドイツで完成されたもので、法律が国家権力の行使を厳格に定め、とくに行政と司法をして法律に従って行なわしめることをいう」(p.80)
「ドイツにおけるこのような『法治主義』が『人定法主義(law positivism)』――『法実証主義』は誤訳――と合体するとき、ヒットラー・ナチズムという『法治国家』が生まれたのである」(p.80)
「ユダヤ人を絶滅する反倫理性きわめた、あの悪法を含め、独裁者のあらゆる命令が法律として施行されれば、この法律に従った『法治主義』行政こそ反正義・反倫理・反道徳の国家をつくりうることを証明したのではないか」(p.80)
「その法律が法律であるかぎりいかに常識において非道なものであっても、この“合法”であることにおいて何ら非はないと考えるのが『法治国家』の思想である」(p.81)
「ケルゼンらの『人定法主義』とは、『法の支配』を否定し一掃した悪魔のイデオロギーである」(p.81)
「しかし、『法の支配』が存在していれば、無差別殺戮など“法”に反する法律は制定することはできない。また仮に、制定されても、裁判(司法)において争い、それを“無効”に至らしめることができる。法律が“法”の下にあってその支配を受けるからである」(p.81)
「実際にブラックストーンは、オックスフォード大学の講義で、『道徳法(moral law)と矛盾する制定法は無効である』との学説を説いたのである」(p.110)
「悪い法律(legislation)は法律ではない、と判断するのが『法の支配』の原理が息づいていなければならない真正の自由社会である」(p.212)
以上、英米の「コモン・ロー」と合わせて、「法の支配」と「法治主義」について、さらに理解を深めて頂ければと思います。
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